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法人成りで得られる節税面でのメリット

法人化による節税(給与関係)

個人事業主の場合、事業で得た収入から経費を除いた成果が、全額経営者に帰属します。この所得は給与としての取り扱いはできず、「事業所得」というものになります。

これに対し法人の場合、収益から必要経費を差し引いた所得は、経営者ではなく全額法人に帰属します。この所得は、全額を給料として役員に支給することによってはじめて、全額経営者に帰属します。

このように法人成りすると、事業で得た成果を経営者に帰属させるためには、「給料の支給」という行為をワンクッション入れる必要があります。一人経営者だとこのワンクッション入れることに何の意味があるのかとバカバカしく感じる人もいるようです。が、まさにこれが法人化の最大のメリットです。特に配偶者や親族を青色事業専従者として給与支給している場合はさらに爆発的です。ここでは税金にどのような影響を与えるのか検討してみます。

(参考条件)

売上(物販)3,000万円 経費(仕入、広告費、賃貸料等)2,200万円 利益800万円

所得控除は基礎控除の38万円(住民税では33万円)

「税金」=所得税+住民税

「税率」=所得税率(20%)+住民税率(10%)=30%と仮定

法人の均等割り(利益がなくても必ずかかる税金)は7万円と仮定

 

給与所得控除を使った節税効果

■個人事業主の場合

利益800万円は「事業所得」に該当するので、控除は基礎控除のみ

この場合の税金は188万円

■法人成りの場合

利益800万円を給与として支給すると、法人の利益は0円、個人の「給与所得」は800万円

法人の税金は7万円(均等割りのみ)

「給与所得」は、基礎控除の他、給与所得控除あり

個人の税金は126万円

したがってこの場合の税金は133万円

■結論

法人成りした方が年間55万円有利

この結論は、給与収入が800万円の場合、給与所得控除が200万円あることが大きいです。事業所得には「事業所得控除」というものは1円もないですから。20年で差額は1000万円にもなりますから見過ごすことはできません。

 

給与の分散を使った節税効果

さらに経営者と親族に給与を分散することにより、税負担を低く抑えることが可能になります。これは個人にかかる税金が、所得の低い部分には低い税率を、高い部分には高い税率が適用されている(これを累進課税と言います)ためです。

上記法人成りで受取る800万円の給料を、経営者に500万円、配偶者に300万円と分けて支払ったとします。

■法人成りの場合

法人の税金は7万円(均等割りのみ)

個人の税金は52万円(経営者)+23万円(配偶者)

したがってこの場合の税金は82万円

■結論

法人成りし、かつ給与を分散させた方が、分散させないよりも年間51万円有利

法人成りしない場合と比べると年間106万円有利

この結論は、給与収入が500万円の場合、給与所得控除が154万円、給与収入が300万円の場合、給与所得控除が108万円、合計262万円あることが大きいです。分散させない場合、給与所得控除は200万円ですから。20年での差額は2000万円にもなりますから見過ごすことはできません。

■補足

個人事業でも「青色事業専従者給与」という制度によって配偶者に給与を支払うことはできます。しかし配偶者の働きかたに制限があったり、事前に届出が必要(3/15まで)であったりと、すぐ使おうとする時には使い勝手がよくないです。これと比較すると法人成りして、配偶者に報酬を支払うというのは制限がないでので使いやすいというメリットもあります。

 

所得控除(配偶者控除、扶養控除)を使った節税効果

税金は、売上から経費等を差し引いた所得にそのまま税率を掛けて算出するものではなく、「所得控除」というものをさらに差引いて出た課税所得に税率を掛けて算出します。

この所得控除の有名なものとしては、「社会保険料控除」「生命保険料控除」「医療費控除」「寄付金控除」「扶養控除」「配偶者控除」「基礎控除」等々があります。

今回はこの「扶養控除」と「配偶者控除」に焦点を当てた話です。

配偶者や扶養親族に給料を支払って、所得を分散させると節税効果がはかれるのは前述の通りです。しかし「青色事業専従者給与」として配偶者や、扶養親族に給料を支払った場合、経営者の所得控除として「配偶者控除」と「扶養控除」は認められません。所得控除額はともに38万円~ですので、最低でも76万円の控除を逸しています。これは配偶者と扶養親族に103万円ずつ給料を支払って、合計206万円を経費にしたとしても、実質は130万円分しか経費になっていないという事です。

他方で法人成りして、配偶者と扶養親族に給料を支払った場合、その金額が103万円以下(※基準金額は平成29年度までの話)であれば、経営者の所得控除として「配偶者控除」「扶養控除」はそのまま全額76万円~使えます。

経営者の所得金額を500万円とした場合の税率は30%ですから、76万円にかかる税金は年間で23万円ほどです。これは23万円ほど経営者が支払う税金が少なくなるということです。

 

退職金を使った節税効果

個人事業の場合、給料と同様に退職金を事業主に支払うという概念がありません。また家族従業員への退職金の支払いも経費として認められません。

しかし、法人成りすると、法人から経営者本人や家族従業員への退職金を支払うことができ、その金額が妥当なものであれば法人の経費として認められます。これによって、法人の利益を少なくすることができ、税金を減らすことができます。ここで、「個人の所得が増えるからあまり意味がないのではないか?」と思う人もいるかもしれません。

しかし退職金の受取は「事業所得」でもなく「給与所得」でもなく「退職所得」として課税されるのですが、この退職所得は老後の生活保障という観点から税金上非常に優遇されています。

例えば勤続20年で退職し、1000万円を退職金として会社から受け取ったとしましょう。

この場合の退職所得にかかる税金は15万円ですが(退職所得にかかる税金の計算は省略します)、同額を法人から給与として受け取った場合は193万円です。差額は178万円となり、同じ1000万円を受け取るにしても税金を178万円も少なくすることができるという事です。

ただし、勤続年数が5年以下である役員等については、この優遇措置が制限されますので注意が必要です。

 

法人化による節税(給与以外)

所得の種類に応じた税法上の取り扱いにより、法人化(法人成り)するとかなりの節税になることを紹介しました。特に配偶者がいてある程度の売上と利益が出ている個人事業主さんは法人化(法人成り)に興味が出てきたのではないでしょうか。給与ほどではないですが、法人化すると給与以外の面においても節税を図ることができます。特に影響があるものだけご紹介します。

 

出張日当を使った節税

法人化すると、出張に行った際の出張日当を法人経費として計上することができるので、法人税の節税になります。しかも受け取った個人の方では所得税等の税金がかからないので、所得税の節税になります。さらに消費税法上は課税仕入とされるので売上によって受け取った消費税から相殺することができます。このように出張日当はトリプル節税となる魔法の節税とも言えますが、実際に適用している会社は10%程度らしいです。

具体的には出張日当が5,000円で年間60日の出張があったとすると、5,000円×60日=30万円が法人の経費となり、かつ個人の側では税金のかからない30万円の所得を手に入れることができるという事です。

しかし、個人事業主の場合は自分に出張日当を支払っても経費にはなりません。そもそもそういう概念がないです。

ただし、この節税を行うためには出張規程を作成し、役職(社長か一般社員か)や距離(道内か道外か海外か)に応じた手当の金額を事前に決めておく必要があります。この規程を社労士さんにお願いして作成する方も多いですが、社労士さんは規程を作るプロではありますが税法は専門外です。これは否定しているわけではなく、僕も就業規則を作ってくださいと言われても自信がないです。これは専門領域が違うという事です。「手当の金額については一度税理士さんに相談してみて下さい」という社労士さんは信用できる気がします。

 

社宅家賃を使った節税

法人化すると、自宅に関する家賃を法人の損金とすることができます。例えば自宅が賃貸住宅の場合、賃借人を自分個人から法人に切り替えて、自宅は法人から借りるということにします。この際、税法で定められた一定金額以上の家賃を会社に支払えば、家賃は法人の経費になります。会社に支払う一定金額は法人では利益になりますが、通常は相場よりもかなり低いものとなりますので節税効果は高いです。これは持ち家を会社に所有させそれを賃借するという場合も同じですが、持ち家の場合はデメリットの方が大きい気がするのであまりお勧めしません。

具体的には家賃を月8万円支払っているとして、契約を自分から法人に切り替えます(この際必ず大家さんの確認を取らないとトラブルになる可能性があるので要注意です)。そして社宅として法人が社長に貸し付けます。社長は家賃の半分4万円(最低でも20%超の2万円弱ぐらい)を法人に支払えば、その差額である4万~6万円強は法人の経費となります。年間では48万円~72万円になり、税率が30%とすると、15万円~22万程度節税となります。

ここで「経営者の負担金がその程度でいいのか?」と疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれませんが、某都銀の行員が都心の一等地に、本来の相場なら3LDK20万円程度の物件を8万円ぐらいで借りているのは事実です。理屈はこれと同じとなります。

 

法人保険を使った節税

「退職金を使った節税」についてその効果が高いことは説明済みです。

とはいえ、退職金を支払うためには財源が必要であり、この財源を「(法人)生命保険」を利用することが節税になります。どういうことかというと、毎年の(法人)生命保険の掛け金の全額もしくは一部を法人の経費にできるからです。しかも、法人保険の経費算入は、短期前払費用の特例という制度を利用すれば次年度1年分の支払額を全額経費にできます。

具体的には、決算まであと1か月という所で利益が1000万円ぐらい出ているとしましょう。

この場合800万円を超える部分の法人税率は23%と、800万円以下の場合の税率15%と比べると税率が高いので、200万円を経費にしたいと考えた時、あと1ヶ月で200万円の経費を作ることはなかなか難しいです。このとき200万円を法人で生命保険に加入すると、200万円が経費となって46万円が節税されます。法人住民税や事業税等まで考慮するとその節税額はもっと大きくなります。

ここで「掛け金として実際におカネが出ていくのだから、決算賞与や交際費や社用車の購入として支出するとは変わらないのでは?」と疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれません。この疑問は決定的に間違えています。あくまで平成29年11月の話ですが、掛金の総額は将来100%戻ってくるものもあります。現実的には90%前後の商品が多いかもしれません。この場合確かに10%損していますが、それ以上に毎年の掛け金を経費にすることによる節税額と退職所得で受けとる所得控除をあわせて考えるとメリットの方が高いです。

また「受け取る時には法人の利益として計上されるので、結局課税の繰り延べになるだけでは?」と疑問に感じる方もいらっしゃるかもしれません。この指摘はその通りです。このため一般的にはこの受け取った掛金額をそのまま全額社長の退職金として支払います。こうすることによって、掛け金の受取額による利益と退職金による経費が相殺されて利益には影響を与えないことになります。

以上が法人保険の話ですが、個人で保険に入っている場合はどうでしょうか。残念ながら個人での生命保険の場合はどれだけ保険料を支払ったとしても、最大で12万円(しかも生命保険料を一般分・年金分・介護分と支払った場合)が所得控除になるだけです。税率が30%の場合、3万6千円が節税のマックスとなります。

個人で生命保険に入っている方で、返礼率が130%近いお宝保険に入っている人もいらっしゃると思います。でもよくよく考えてみると法人保険に入ると上記のメリットがあるため、それほどお宝ではありません。

ただし、法人保険を使った節税にもいいことばかりではなくデメリットもありますので、必ず事前に顧問税理士さんに相談して納得してから加入するようにしてください。

 

慰安旅行を使った節税

日ごろ仕事を手伝ってくれた家族従業員を慰安するため旅行へ行ったとした場合、個人事業主だとこの旅行代金は事業の費用とはなりません。しかし法人化すると、「旅行期間は4泊5日以内」「旅行費用は1人10万円以下」等の一定の条件を満たすと、福利厚生費として経費計上することができます。税率30%として10万円×3人=30万円かかったとして、9万円が節税できます。

 

欠損金の繰越控除を使った節税

個人事業の場合、赤字になった場合のその損失の繰り越しは3年しかできませんが、法人では9年(平成29年4月1日以降は10年)繰り越すことができます。繰り越せると何が良いかというと、将来出た利益と相殺ができることです。

例えば初年度に300万円の赤字が出たとします。個人事業主の場合は3年以内に300万円の利益が出たとしても、この赤字分の300万円と相殺して税金を払わなくてもよくなります(均等割りは必要)。実行税率が30%程度とすると90万円程度の節税になります。

しかしせっかく相殺できるとしても3年間利益が出なければこの赤字は「期限切れ」として無くなります。これに対し法人の場合繰り越せる期間が長いため非常に有利となります。

 

消費税の免税による節税

法人化を検討するきっかけとなる、一番有名な理由だと思います。

前提として消費税についての仕組みですが、大雑把に会社が支払う消費税額とは、売上等に係る消費税額から仕入れ等にかかる消費税額を控除した額となります。しかし、基準期間(当該事業年度より2期前)における課税売上高が1000万円以下で、特定期間(当事業年度の1期前の上半期)における課税売上高も1000万円未満などの一定の要件を満たす場合は消費税を納める義務が免除されます。

具体的には、何の制約もなければ、まず個人事業主で開業し2事業年度消費税の免除を受けたほうがよいです。そして3回目の事業年度に入る前ぐらいに個人事業を廃業し、それに代わって法人を設立すれば、さらに2期消費税が免除されることになりますので、最長4期は消費税を支払わなくて済みます(特定期間の要件については要注意なので、かならず税理士さんに相談してください)。

ただし、この消費税の免除も、設立時の資本金が1000万円を超える場合には適用されませんので資本金額には要注意です。

定款や登記簿を見ると、例えば10月2日に会社を設立して、3月末決算としている会社がたまにあります。この場合免除される期間は2期と言っても、正確な期間で言うと約1年6か月しかありません。この場合、決算月は9月とするべきです。こうすることによって免除される期間がほぼ2年となるからです。3月決算にする事情がある場合は、3期目に入った10月1日に決算期変更をして決算月を3月にするという方法もあります。法人は決算期を自由に決められるだけでなく、一度決めた決算期を変更することも可能です。

最後に注意する点です。法人成りする理由として「消費税の免税」は大きな理由になりますが、法人化すると税理士報酬は個人事業の時よりも通常高くなります。消費税の免税というプラスの効果は早ければ2年程度で終了しますが、税理士報酬は高くなったままですので、もし消費税の免税しか法人成りする理由がなかったとしたら、無理に法人成りする必要は当然ありません。事業を2~3年で辞めるつもりであればメリットの方が大きいですが、20~30年続けていくものだからです。

 

決算期の変更を使った節税

消費税のところで述べたように、個人事業主の計算期間は1/1~12/31と決まっているのに対し、法人は所定の手続きさえすれば自由に事業年度を変更することができます。

臨時の不動産を売却する予定があったとして、その利益が大きかったとした場合、それが事業年度末に行われると十分な税金対策が取れない可能性が高いです。このような場合は事業年度を変更して、当該不動産の売却前に一度事業年度を終了させてしまうということもできます。これによって事業年度開始してすぐに利益が出るということになりますので一年かけて節税考えることもできます。

 

法人化による節税以外のメリット

最後に税金面以外のメリットを簡単に述べさせていただきます。

 

社会保険加入による保障が受けられるメリット

個人事業主の場合、社会保険に任意に加入することはできますが、対象者は従業員だけです。個人事業主としての経営者は加入することはできず、一般的に国民健康保険(建築関係の方は建設国保)と国民年金に加入することになります。しかし法人化するとたとえ経営者一人の一人法人でも社長は社会保険に加入することができます(できる規定ではなく強制加入です)。

社会保険の健康保険と厚生年金に加入した時のメリットはここでは省略します。

ただ、従業員がいる場合は、従業員の社会保険料について会社の負担が生じます。従業員が多い場合はその負担金額は小さくないです。この面から見ると会社にとってはデメリットかもしれません。

 

遺産分割時のメリット

個人事業主の場合は、事業主が死亡して相続が発生すると、個人名義の預金口座が一時的に凍結されて、そこからの支払いが困難になるなど事業に支障を与えることがありえます。また相続人が複数いる場合には、重要な事業用資産が売却されるなど、事業承継に問題が生じる可能性もあります。また、一般に不動産等の事業用資産は価値が高いことが多く、相続したことにより多額の相続税が発生するため、税金の支払いのために事業用資産である土地等の不動産を売却せざるを得ず廃業に追い込まれる可能性もあります。

この点法人化しておくと、代表者の死亡により会社の預金口座が凍結したり、会社の資産が相続の対象になることはありませんので、事業がストップするというような事態に陥ることはありません。

 

事業の売却が容易になるというメリット

法人の場合、例えば株式会社であれば株式を売却することによって、事業そのものを売却することができます。後継者がいない場合は株式を売却することで、事業を他社に譲り、事業を現金化することができるということです。

これに対し、個人事業の場合はそれほど事業の譲渡は簡単ではありません。個々の事業用資産の移転手続きだけでなく、各種契約名義の変更、取引先への銀行口座の変更連絡、債権債務の引継など、手続が非常に煩雑となるため、事業の売却に対しては実質非常に後ろ向きになります。

 

 

以上が、法人成りした時の節税面で得られるメリットとなります。

いかがでしたでしょうか。

会社設立について今回で11回目の記事になりますが、これで最後です。

色々と書いてきましたが、開業して1~2年の個人事業主の方から受ける質問は、ほぼ今回の記事の「法人成りした方がいいのか?法人成りすると何がいいのか?」に集約します。そのほか、給与や社会保険などの人件費関連の質問も多いところですが、法人成りの疑問と比べると社長が真面目に考える熱量が全然違います。

今回の記事は相当長いですし、難しいところも多かったと思いますので、ここまで読んでこられた方は相当法人成りについて真剣に考えていらっしゃるということだと思います。

ですので、特に注意して頂きたいのは、今回の記事は「法人成りに悩んでいる人への大きな方向性を示す」という趣旨で分かりやすく記載することを心がけました。このため、注意すべき点もあるところ細かすぎるのであえて記載しなかったというところも多少あります。

とはいえ大きな方向性は示せた気がします。もし記載していることで不明な点がありましたら遠慮なくご質問ください。

下記サイトが弊事務所のHPとなっており、「ご相談・問合せ」フォームを用意しています。

この記事が、一人でも多くの事業主にためになれば嬉しいです。

 

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利木貴志